埼玉県にお住まいのお客様から、工事が始まって三日目にお電話をいただいたことがあります。お隣の方から「朝から機械の音がうるさい、何時まで続くのか」と言われてしまい、どう答えていいか分からなかったそうです。業者に聞いても「普通の工事なので」としか返ってこなかったと、困り果てた声でした。
結局そのお宅では、お隣の方が市役所に相談してしまい、業者が呼び出される事態になりました。幸い大きな処分にはならなかったのですが、お客様ご自身も「まさか役所まで話が行くとは思わなかった」と、工事そのものへの不安が一気に膨らんでしまったんですよね。
似たようなお話は、実はこれ一件だけではありません。工事音というのは、住んでいるご本人よりも、お隣で暮らす方のほうが敏感に感じ取るものなのだと、現場を見てきて実感しています。
前職で窓口に立っていた頃、恥ずかしながら「騒音規制法」という言葉をきちんと説明できたのは、こうしたご相談を受けてからのことでした。外壁塗装そのものに特別厳しい基準があるわけではないのですが、高圧洗浄機や電動工具を使う作業の一部は「特定建設作業」に当たる場合があり、自治体への届出や、作業時間・騒音レベルの目安が定められていることがあるんです。
地域によって基準値や届出先が変わりますし、住宅地か商業地かでも扱いが違ってきます。業界歴20年の中でも、このあたりをわかりやすい言葉で説明できる担当者には、あまり出会ってきませんでした。専門用語を並べるだけで終わってしまい、お客様にとっては結局「よく分からないまま」になってしまうことも多いように思います。
長野県のあるお客様からは、契約後になって「近所に配る挨拶状に、作業時間のことも書いておいた方がいいのでしょうか」とご相談をいただいたことがあります。そのとき初めて、業者側がこうした説明を後回しにしがちだという現実に、改めて気づかされました。
だからこそ私は、契約前の打ち合わせで「作業時間の目安」と「近隣への配慮をどうするか」を業者に聞いておいてほしいとお伝えしています。届出が必要な工事かどうかの判断自体は専門的なので業者に委ねる部分ではあるのですが、何も聞かずに任せきりにしてしまうと、いざという時にお客様が矢面に立たされてしまうことがあるからです。
先日もお打ち合わせの中で、「前の業者はそんな話一切してくれませんでした」とおっしゃるお客様がいらっしゃいました。工事の技術そのものよりも、こうした地味な配慮の有無で、現場の空気はずいぶん変わるものだと感じています。
一度「うるさい業者」という印象がついてしまうと、工事が終わった後もご近所付き合いに影を落としてしまうことがあります。着工前の挨拶回りで、作業時間のおおよその目安や、特に音が出やすい日(高圧洗浄や下地処理の初日など)を一言伝えておくだけで、受け止め方は大きく変わるものです。
工事が始まってから「聞いていなかった」と言われるのと、始まる前に「少しの間、音が出ますがご了承ください」と伝えておくのとでは、同じ工事でもご近所の受け止め方がまるで違います。小さな一言が、工事全体の印象を左右するのだと、これまで多くの現場を見てきて感じてきました。
お客様ご自身が騒音規制法の細部まで覚える必要はないと思っています。市区町村ごとの基準値や届出先を調べることまで求めるのは、さすがに酷な話だと思うからです。
ただ、「この工事には届出のようなルールがあるのか」と一度業者に尋ねてみる。その小さな一歩が、ご近所との関係を守ることにつながるのではないかと、私は感じています。工事は数週間で終わりますが、ご近所付き合いはその後もずっと続いていくものなんですよね。