前職で外壁塗装の窓口をしていた頃、ある代理店の若い営業マンと話す機会がありました。彼はとても人当たりが良く、施主さんからの評判も悪くない人でした。ただ、雑談の中でぽろっとこう言ったんです。「今月あと一件決めないと、来月の生活がきついんですよね」と。
外壁塗装の営業には、基本給に加えて契約件数や金額に応じた歩合が上乗せされる仕組みを採用している会社が多くあります。特に飛び込み営業や紹介営業を中心とした会社では、歩合の比重が大きく、契約が取れない月は収入が大きく落ち込んでしまうという話も聞きました。会社によっては、営業マン自身がその場で値引き額を決められるくらいの裁量を持たされていて、その裁量の大きさが、契約を急がせる力にもなってしまうようでした。
情熱的な接客の裏に、こうした生活のかかった事情があると知ったとき、私は営業という仕事の見え方が少し変わったのを覚えています。決して悪意があるわけではなく、多くの場合は、営業マン自身も一生懸命なだけなんですよね。
歩合には、月末や締め日といった区切りがあります。ですので「今月中に契約すれば値引きします」「今日決めていただければ特別価格で」という言葉が出てくる背景には、施主さんのためというより、営業マン自身や会社の締め日の都合が関わっている場合があるんですよね。
埼玉県にお住まいのお客様から、こんなお話をお電話でいただいたことがあります。その日の夜に営業マンが来て、その場で契約書にサインをするまで帰らなかったというんです。「今日だけの価格なので」と言われ、断りきれずに契約してしまったものの、後から冷静に考えると本当にその金額が妥当だったのか分からなくなってしまったと、少し疲れた声でおっしゃっていました。
こういうお話を伺うたびに、同じ思いをするお客様をもう一人でも減らしたいという気持ちが強くなります。急かされて決めたことというのは、工事が終わった後になってもずっと心に引っかかってしまうものなんです。
ここで誤解のないようにお伝えしたいのですが、歩合制という仕組み自体が悪いとは思っていません。頑張った分だけ評価される仕組みは、営業マンにとっても健全な面があります。実際、歩合制の会社に所属していても、施主さんの立場に立って無理な値引きや即決を勧めない、誠実な営業マンを何人も見てきました。
問題なのは仕組みそのものではなく、その仕組みに追われるあまり、施主さんの検討する時間を奪ってしまう営業のやり方だと私は考えています。良い営業マンかどうかは、契約を急ぐかどうかより、こちらの疑問に一つひとつ丁寧に答えてくれるかどうかで見極められる部分が大きいように感じています。逆に言えば、急かす言葉を使わない営業マンだからといって、それだけで信頼できるとも限りません。結局は、話し方の癖ではなく、説明の中身を見てほしいというのが本音です。
もし「今日だけ」「今月中なら」という言葉をかけられたら、まずはひと呼吸置いてみてほしいと思っています。本当に良い提案であれば、数日後にもう一度話を聞いても内容が大きく変わることはありません。むしろ、少し時間を置くことを嫌がる営業マンかどうかを見る、良い機会にもなります。
可能であれば、その場で即決せず、一度他の業者の見積もりと比べてみることをおすすめしています。金額だけでなく、値引きの理由や根拠を聞いてみると、その営業マンや会社の姿勢が見えてくることもあります。「今の金額はどういう根拠で決まっていますか」と一言尋ねるだけでも、相手の反応から見えてくるものは意外と多いんです。
急かされて決めたことを後悔するお客様を、私はこれまで何人も見てきました。だからこそ、この仕組みを知っておくだけでも、心の余裕は変わってくるのではないかと思っています。