新潟県のあるお宅で、ご夫婦とお子さん夫婦、四人で色を決める打ち合わせに同席したことがあります。色見本帳を囲んで、お母様とお子さん夫婦が「このグレーがいいね」と盛り上がっている横で、お父様だけがずっと違う一枚を指さしていたんですよね。担当していた営業は気づかないまま話を進めていて、私はちょっと引っかかるものを感じました。
あとで奥様にそっと伺ったところ、ご主人には色覚特性があって、緑がかったグレーと茶色がかったグレーの区別がつきにくいとのことでした。ご本人は長年それを特別なことと思わずに生きてこられたので、わざわざ申告する場面だとも思っていなかったようです。悪気があったわけでは全くなく、ただ誰もそこに意識が向いていなかっただけなんです。
手のひらサイズの色見本と、実際に何十平米も塗られた外壁とでは、同じ色でも見え方がまったく違います。これは業界ではよく知られている話で、面積効果という言葉もあるくらいです。ただ、この「見え方の違い」は色覚特性がある方にとって、さらに読みにくいものになります。
光の当たり方、周囲の植栽の緑、隣家の外壁の色。こうした環境要因は誰にとっても色の印象を変えますが、色の識別そのものに特性がある方の場合、判断材料がもう一段階複雑になっているというのが正直なところです。私自身、前職で色のクレームに立ち会うたびに「見本と違う」という言葉の奥に、実はもっと個別の事情が隠れていることがあるのだと学びました。
先のお宅では、結局お父様の希望とは違う色に決まりました。工事自体は問題なく終わったのですが、完成後の集合写真で、お父様だけどこか浮かない顔をされていたのを覚えています。色そのものの良し悪しではなく、「自分の見え方は聞いてもらえなかった」という感覚が残ってしまったんですよね。
こうした場面で業者ができることは、実はそんなに難しくありません。色見本を選ぶ前に「見え方について気になることはありませんか」と一言添えるだけで、家族の中の温度差に気づくきっかけになります。私たちが加盟店に色選びの同席をお願いする理由のひとつも、ここにあります。営業担当だけでなく、家族全員の反応を見てくれる人がその場にいてほしいのです。
色覚特性に配慮した色選びといっても、特別な道具が必要なわけではありません。色名だけで判断せず、明度(明るさ)の差を意識して選ぶこと。屋内ではなく屋外の自然光の下で、家族それぞれが指を差してもらうこと。そして「同じ色に見えていますか」と、当たり前のようで誰も聞かない一言を交わすこと。それだけで、進め方はずいぶん変わってきます。
色覚特性は人口の中で決して少なくない割合で存在すると言われています。塗装業界にいる私たちが、そのことを知っているかどうかで、ご家族に残る納得感は変わってくるのだと思います。
外壁の色選びは、家族全員が同じものを見て決めているようで、実は一人ひとり違う景色を見ています。色見本の前で全員の声を拾えるかどうかは、業者の技術というより、姿勢の問題なんですよね。これからも、色を決める場に立ち会う一人として、その視点を忘れずにいたいと思っています。