静岡県の沿岸部にお住まいのお客様から、こんなお電話をいただいたことがあります。「近所の内陸の家と同じ時期に塗り替えたはずなのに、うちだけ先にチョークみたいな粉が出てきたんです」と。前職時代から数えると、こうした沿岸部特有のご相談は何度も耳にしてきました。海に近い土地では、風に混じった塩分が外壁に付着し続けます。雨で洗い流されればまだいいのですが、降水量が少ない時期が続くと、塩分が壁の表面にとどまったまま紫外線や気温差にさらされることになるんですよね。
内陸の住宅と同じ感覚で「塗り替えは10年後で大丈夫だろう」と考えてしまうと、実際には数年早く傷みが進んでいたという声を、私は複数件見聞きしてきました。これは決して大げさな話ではなく、立地によって外壁が置かれている環境が違う、というだけのことなんです。同じ築年数、同じ塗料であっても、海までの距離や風の通り道次第で傷み方はかなり変わってきます。
沿岸部のお宅を拝見すると、外壁本体よりも先に、雨樋や換気フード、面格子といった金属部分に赤茶けた錆が浮いていることがよくあります。塩分は金属の腐食を早める性質があるので、目立たない付帯部からじわじわと劣化が進んでいくんです。お客様ご自身は外壁の色あせばかり気にされていて、付帯部の錆に気づいていないケースも少なくありませんでした。
忘れられないお話があるんです。神奈川県のあるお客様は、外壁の見た目がまだきれいだからと点検を先延ばしにしていたのですが、いざ業者に見てもらうと雨樋の裏側がかなり傷んでいて、交換が必要な状態になっていました。「外壁だけ見ていれば大丈夫だと思っていました」とおっしゃっていたのが今も印象に残っています。目に入りやすい面だけで判断してしまうのは、無理もないことだと思うんです。
塩害を受けやすい地域では、耐候性の高いグレードの塗料を検討する価値があると、私は考えています。フッ素系や無機系といった塗料は初期費用こそ上がりますが、塩分や紫外線にさらされる環境では、長い目で見たときの塗り替えサイクルに違いが出てくる傾向があります。もちろん、グレードを上げれば絶対に安心というわけではなく、下地処理や施工の丁寧さが伴って初めて意味を持つものです。
業界に身を置いて20年になりますが、沿岸部のお客様に画一的な提案をする業者を見るたびに、少し気になってしまいます。同じ塗料、同じ周期を内陸の住宅にもそのまま当てはめてしまう提案は、その土地の環境をきちんと見ていないのではないかと感じることがあるんです。見積もりの提案理由に、立地への言及があるかどうかは、ひとつの目安になると思っています。
沿岸部にお住まいの方には、内陸の住宅よりも少し短いスパンでの点検をおすすめしたいと思っています。塗膜の状態は、実際に触れてチョーキングの有無を確かめてみないと分からない部分も多いからです。先日も、海から数百メートルの距離にお住まいのお客様から「そろそろ見てもらった方がいいですよね」というご相談をいただき、伺ってみると想定より早く塗膜の防水性が落ちている箇所がありました。
早めに気づけば、部分的な補修で済むこともあります。逆に気づくのが遅れると、下地から傷んでしまい、工事の規模も費用も膨らんでしまう。これは沿岸部に限った話ではないのですが、環境による劣化の速さの違いを知っているかどうかで、対応できるタイミングが変わってくるんですよね。ご自宅がどんな環境に建っているか、一度立ち止まって考えてみていただきたいなと思います。