前職で窓口の仕事をしていたころ、長野県のお客様から一本の電話をいただいたことを今でも覚えています。契約から一週間ほど経った頃で、遠方に住むお子さんが帰省した際に見積もりの内容を見て「この金額なら別の業者にも聞いてから決めた方がいい」と強く言われたそうなんです。ご本人も迷いが出てしまい、解約したいというお話でした。
ただそこで問題になったのが、契約書の中にあった「契約解除の場合、既に発生した費用および違約金として契約金額の一部を申し受けます」という一文でした。お客様はそんな条項があったこと自体、正直よく覚えていなかったんですよね。
訪問販売や自宅での契約であれば、法律で定められた期間内であれば書面でクーリングオフの通知を出すことで、無条件に契約を解除できます。ここは施主にとって心強い制度だと思います。
難しいのは、その期間を過ぎてから事情が変わったケースです。クーリングオフが使えない以上、あとは契約書に書かれた解除条項が頼りになります。そこに「解約手数料」「違約金」といった言葉があり、金額や割合が明記されていないと、後になって業者側の言い値に近い金額を求められてしまうことがあるんです。私が知っている範囲でも、数万円で済んだ方もいれば、契約金額の一部をまとまった額で請求されたという相談も複数件ありました。
見積もりの金額や工事内容には目を通しても、契約書の解除条項までじっくり読む方は、正直そう多くない印象があります。着工前の準備段階でキャンセルした場合の費用がどう計算されるのか、上限があるのか、実費精算なのか。ここを契約前に確認しておくだけで、いざというときの安心感がまったく違います。
できれば「着工前○日以内であれば実費のみ」「着工後は出来高に応じて」というように、具体的な基準が書かれているかを見てほしいと思います。曖昧な表現しかない場合は、契約の場で質問してみることをおすすめしています。
先日も、ご夫婦だけで契約を決めてしまい、後から同居するご両親の意向と食い違ってしまったというお話を伺いました。外壁塗装は決して安い買い物ではありませんし、家族の中で意見が割れることも珍しくありません。だからこそ、契約前に一度持ち帰って、家族で話す時間を作ってもらえたらと思っています。
業界に身を置いて20年近くになりますが、契約を急がせるような雰囲気を作らない業者かどうかも、実は見極めのひとつだと感じています。
解約そのものは悪いことではありません。ただ、そこにどんな条件があるのかを知らないまま契約してしまうと、いざというときに余計な出費や気まずさを抱えることになってしまいます。私自身、そうした場面に立ち会うたびに、もう少し早く伝えられていればと感じてきました。