埼玉県のあるお客様から、工事が始まって数日後にお電話をいただいたことがあります。「トイレを借りたいと言われて、最初は快く貸したんですけど、廊下のフローリングに靴跡のような傷が残っていて」というお話でした。職人さんに悪気があったわけではなく、慌てて上がってしまっただけなのですが、お客様としては「まさか家の中まで人が入るとは思っていなかった」というのが正直な感想だったようです。
塗装工事の見積もりや契約書には、外壁や屋根、足場のことは細かく書かれていても、室内の立ち入りについて触れられているものはほとんど見かけません。だからこそ、お客様側も「外の工事なんだから室内は関係ない」と思い込んでしまいやすいんです。私自身、前職で初めてこの手のクレームを受けた時は、正直どう説明すればいいのか戸惑った記憶があります。
高圧洗浄機や電動工具を動かすための電源、休憩時間のトイレ、真夏なら冷たい飲み物を求めて何度も出入りすることもあります。特に長時間の高圧洗浄がある日は、水道の蛇口を借りることも珍しくありません。工事の性質上、こうした立ち入りは避けられない部分もあるのです。
問題は、それを事前に説明してくれる業者と、当日いきなり「すみません、トイレお借りしてもいいですか」と聞いてくる業者がいるという点です。長野県のお客様は、初日にトイレとコンセントの使用について丁寧な説明を受けたそうで、「そこまで考えてくれているんだ」と安心されたと話してくれました。同じ工事でも、事前の一言があるかないかで、お客様の受け止め方はまったく違うんですよね。
別のお客様の事例ですが、ベランダに置いていた自転車や鉢植え、灯油タンクが塗装の飛散でうっすら色がついてしまい、気づいた時にはもう遅かったというお話がありました。業者は「外壁と足場周りは養生しました」と説明していたそうですが、お客様が想像していた養生の範囲とは少しずれていたのだと思います。
窓を開け放しにして室内から養生シートを貼る作業がある場合、部屋の中の棚に置いてあった小物が振動で倒れてしまったという話も聞いたことがあります。大きな被害ではないのですが、こうした小さな「思っていたのと違う」の積み重ねが、工事全体の印象を悪くしてしまうことがあるのです。
工事が始まる前に、トイレや水道、電源を貸してよいかどうか、貸す場合はどこを使ってほしいかを業者と話しておくと、当日の戸惑いはかなり減ります。ベランダや庭に置いてある家財は、貴重品でなくても一度屋内やガレージにしまっておくと安心です。養生の範囲についても「外壁だけか、窓周りの室内側まで含むか」を一言確認しておくだけで、後々のすれ違いを防げます。
職人さん側からすると当たり前のことでも、お客様にとっては初めての外壁塗装ということも多いものです。工事は外だけで完結すると思わず、家の中にも小さな配慮が必要な場面があるのだと、頭の片隅に置いていただければと思っています。