忘れられないお話があるんです。長野県にお住まいの70代のお客様が、外壁塗装の中間金を現金でご用意しようと、長年お付き合いのある銀行の窓口を訪れた時のことでした。窓口の担当者から「何にお使いになるんですか」と丁寧に、けれど何度も尋ねられ、最終的には別室に案内されて詳しい説明を求められたそうです。
お客様はそのやり取りにすっかり気疲れしてしまい、工事が終わってからぽつりと「まるで自分が悪いことをしているみたいだった」とおっしゃっていました。外壁塗装のためにまとまったお金を用意するのは、何もおかしなことではありません。ただ、銀行にとっては、高齢のお客様が窓口で大きな金額を下ろそうとする場面そのものが、注意すべきサインに見えてしまうようなんですよね。
前職で施主様からの相談を受けていた頃から、振り込め詐欺や還付金詐欺のニュースを目にするたびに、被害に遭われた方の年齢層の高さが気になっていました。全国の金融機関では、高齢のお客様が大口の現金を引き出そうとすると、声掛けを徹底するよう内部でルールを定めているところが多いと聞きます。窓口だけでなく、ATMでの高額引き出しに制限をかけている銀行もあると耳にしました。
この仕組み自体は、お客様を守るための大切な取り組みだと思っています。ですが、外壁塗装のような正当な理由での引き出しまで一律に慎重な扱いを受けてしまうと、お客様の側は戸惑ってしまいますし、なんだか申し訳ない気持ちにさえなってしまう。この温度差を、私たち業界の側でも少しずつ埋めていけないかと考えています。
こうした場面を何度か見てきて感じるのは、契約書や見積書、工事の請求書といった書類を一式持って窓口に向かうだけで、ずいぶん話が早く進むということです。工事の内容と金額がはっきり分かる書類があれば、銀行側の確認もスムーズになりますし、お客様自身も「きちんと説明できる」という安心感を持って窓口に立てるのではないかと思います。
弊社でも、加盟店の担当者にはお支払いのタイミングが近づいたら、その旨をあらかじめお客様に一言添えておくようお願いしています。ちょっとしたことなのですが、当日の窓口でのやり取りが変わってくるんですよね。書類の日付や金額が実際の支払い予定と食い違っていないかも、事前に確認しておくと安心です。
支払い方法についても、現金一本に絞らなくていいのではないかと思っています。振込であれば記録が残りますし、分割払いを選べば、一度に大きな金額を動かす必要そのものがなくなります。窓口での説明も「毎月これくらいの引き落としです」という形になり、身構えずに済むという声も聞きます。
もちろん、長年のやり方として現金でのやり取りに安心感を持つお客様の気持ちも分かります。手元でお金の動きを確認したい、という思いは自然なことです。ただ、契約前の段階で支払い方法について業者とじっくり相談しておくと、いざという時に窓口で慌てずに済むはずです。
先日も、娘様が契約に同席され、支払いのスケジュールを一緒に確認してくださったお客様がいらっしゃいました。銀行での引き出しにも娘様が付き添われたそうで、窓口でのやり取りもずいぶんスムーズだったと伺っています。
ご本人だけで抱え込まず、ご家族や信頼できる方と資金計画を共有しておく。それだけで、当日の負担はぐっと軽くなるのだと思います。業界に身を置いて20年、こうした小さなつまずきの積み重ねが、お客様を疲れさせてしまうのだと感じています。