きれいに仕上がった外壁を見て、「ちゃんとやってもらえた」と感じる気持ちはよく分かります。でも実は、塗装の質を決める工程のほとんどは、最後のペンキの下に隠れているんですよね。
下地処理の丁寧さ、ひび割れ補修の深さ、下塗りの密着度——これらはすべて、表面の塗料の下に隠れてしまいます。塗装工事は、見た目の仕上がりよりも、下の工程の積み重ねがものをいう工事なんです。だから「完成後の外観がきれいだったから大丈夫」とは言い切れないことが、実際にはよくあるんです。しっかりとした工程を踏まずに表面だけを整えることも、技術的には可能で——だからこそ、工事中の記録が大事になってくるのです。
仕上がりで判断できないなら、工程で確認するしかない。その考え方が、施主さんを守ることにつながると、私は思っています。
前職でマッチングを担当していたとき、今でも忘れられない出来事があります。北関東にお住まいのあるお客様から、工事完了から半年ほど経ったころに「塗装の一部が剥がれてきた」とご連絡をいただいたことがありました。業者に問い合わせると「もともとの外壁の状態が悪かったせいで、対応できない」と言われてしまったそうで、どうすればいいか分からないとお電話をくださったんです。
そのとき一番困ったのが、施工中の写真がまったく残っていなかったことでした。高圧洗浄をどの程度行ったか、下地補修の状況はどうだったか——何一つ確認する手がかりがない。業者の言い分を否定できる材料がなく、お客様が「もう泣き寝入りするしかないんですか」とおっしゃっていたのが、今も耳に残っています。
あのとき施工の写真が一枚でもあれば、事実確認のとっかかりにはなれたはずなんですよね。写真の有無だけで、話し合いの土台がまったく違ってくるんです。
では実際に何をお願いすればいいかというと、最低限押さえてほしいのは高圧洗浄後・ひび割れ補修後・下塗り完了後・中塗り完了後・上塗り完了後の5段階です。「着工前」と「完成後」の比較写真だけを渡してくる業者もいますが、それだけでは工程の内容は確認できません。
中でも下塗りの段階の写真は大切で、下塗りが丁寧かどうかは塗装の耐久性に影響することが多いんですよね。高圧洗浄の後に「ここまで丁寧に洗ってくれたんだな」と分かる写真があるだけで、施主さんの安心感もまったく変わります。
写真を求めるタイミングは、工事が始まる前——見積もりの段階か、契約時に「工程写真を施工報告書としてまとめていただけますか」と伝えるのが自然です。この依頼に対して嫌な顔をされたり、「うちはそういう対応はしていない」と言われたりすることがあれば、それ自体が一つの情報になります。仕事に自信のある業者ほど、写真を残すことを嫌がる理由がないんですよね。
私がこれまで関わってきた業者の中に、工程ごとの写真を膨大な枚数のデータにまとめ、竣工後にフォルダごとお客様へ渡しているところがありました。そういう会社は、工事後のトラブルが少ない印象があります。
「ここまで丁寧にやりました」と後から示せるものがある業者は、何か問題が起きたときにも話し合いの場に立てます。それはお客様にとっての安心であると同時に、業者にとっても誠実な仕事ぶりを後から証明できることになる——写真を残すことは、双方にとって自然なことなんですよね。
先日も相談を受けたお客様に「工事前に施工写真をお願いしてみてください」とお伝えしたところ、工事後に「頼んでおいてよかった、丁寧な報告書が届きました」とご連絡をいただきました。「写真を残してもらえますか」というひと言は、業者を試すためではなく、安心して任せるために、そして万が一のときに大切なお住まいを守るために使ってほしいと思っています。