長野県のあるお客様から、前職時代にお電話をいただいたことがあります。三社から見積もりを取ったが、一番安いところに決めたと。理由を伺うと「足場代が無料だったから」とおっしゃるんですね。金額の内訳を見せてもらうと、たしかに足場の項目には0円と書いてありました。
ただ、その代わりに塗料の単価が、他の二社よりも一回り高く設定されていたんです。総額で比べると、実はそれほど変わらない。むしろ少し高いくらいでした。お客様は「無料」の三文字にすっかり安心してしまっていて、他の項目まで見比べる余裕がなかったのだと思います。悪気があって騙したというより、そういう見せ方の工夫だったのでしょうけれど、お客様が気づかないまま契約書に判を押していたら、と思うと今でも複雑な気持ちになります。
そもそもの話をすると、足場は工事のたびに組んで、外して、トラックで運んで、保管する。人手も車両も必要ですし、レンタルであれば当然費用がかかります。それがゼロ円になるということは、どこかで帳尻を合わせているということなんですよね。
多いのは塗料代や諸経費への上乗せです。悪いことをしているつもりはなく、営業の見せ方として「無料」という言葉のインパクトを使っているだけ、という会社もあります。ですから足場代無料そのものを一律に怪しいと決めつける必要はないと私は思っています。問題は、その言葉に安心してしまって、総額を見比べる作業を省いてしまうことなんです。
業界に身を置いて20年になりますが、見積書というのはお店ごとに書き方も項目の切り方もバラバラです。ある会社は足場・養生・塗装・諸経費と四つに分けていて、別の会社は「工事一式」でまとめて出してくる。項目名が違えば、単純な横並び比較はできません。
先日も、加盟店から届いた見積もりの相談を受けていて感じたのですが、塗料のグレードや面数、付帯部の範囲まで揃えたうえで比べないと、「無料」や「割引」の言葉に振り回されてしまいます。同じ仕様書で三社分を並べてみると、無料をうたっていた会社が必ずしも一番安いわけではなかった、ということも珍しくないんです。
「足場代無料」という言葉自体を否定するつもりはありません。ただ、その言葉だけで決めてしまうのは、少しもったいないと感じています。大事なのは、条件を揃えたうえで総額を見比べること。そして、なぜ無料にできるのかを一言聞いてみることだと思うんです。
聞かれて困る会社であれば、そこにヒントがありますし、きちんと説明してくれる会社であれば、それも一つの安心材料になります。同じ思いをするお客様をもう一人でも減らしたい、という気持ちで、これからもこうした価格の裏側についてお伝えしていきたいと思っています。