前職時代、群馬県のあるお客様からいただいたお電話を今でも覚えています。朝一番で足場が組み上がり、いよいよ高圧洗浄から工事が始まる、というタイミングで職人さんの手が止まってしまったそうです。理由は、足場の一部が敷地に引き込まれている電線に近づきすぎていたことでした。
お客様は「え、そんなの聞いていない」と戸惑われていました。無理もないと思います。契約時にも、着工前の打ち合わせでも、電線との距離について説明を受けていなかったからです。結局、電力会社への連絡と現地確認に数日を要し、工期がそのぶん延びてしまいました。お客様にとっては、外壁の色や塗料のグレードよりもずっと地味な話ですが、実際に工事が止まる原因としては決して珍しいものではないと感じています。
電柱から住宅へ引き込まれている電線には、高圧線ほどではないにしても、人が不用意に近づいてはいけない距離というものがあります。足場を電線のすぐ脇に架けてしまうと、職人さんの感電リスクだけでなく、電線そのものを傷つけてしまう危険もあるためです。こうした場合、事前に電力会社へ連絡し、線を一時的に養生してもらったり、状況によっては絶縁対応の工事を挟んでもらったりする必要が出てきます。
この確認は、敷地の形状や電線の引き込み角度によって必要になったりならなかったりするので、一律に「必ず発生する」ものではありません。ただ、古い住宅街や、電柱からの引き込みが複雑な立地では、意外と発生する印象を持っています。
ここで大事なのは、業者によって、この電線対応を見積もり段階で織り込んでいるところと、着工してから初めて気づくところがある、という点です。経験のある業者であれば、現地調査の時点で電線の位置を確認し、「ここは事前に電力会社へ連絡しておきますね」と一言添えてくれます。逆に、現地調査を簡単に済ませてしまう業者だと、足場を組んでから初めて問題に気づく、というケースが起きやすくなります。
お客様の側から専門的な判断をするのは難しいと思いますが、「敷地の電線との距離は大丈夫そうですか」とひと言聞いてみるだけでも、業者の現地調査の丁寧さが見えてくることがあります。工期が延びること自体は仕方のない場合もありますが、事前に知らされているかどうかで、お客様の受け止め方はずいぶん変わってくるものだと感じています。
外壁塗装の見積もりというと、面積や塗料のグレード、足場代といった金額の話に目が行きがちです。ただ、実際に工事を止めてしまう要因は、こうした目立たない部分に潜んでいることが多いというのが、これまで数多くの現場に関わってきた実感です。
足場を架ける計画の中に、電線との距離がどう考慮されているか。これは契約書に書かれることの少ない項目だからこそ、口頭で確認しておく価値があると思っています。